生後間もない赤ちゃんのいるネイリストのユミちゃんに
爪をやってもらってる間、出産の話でものすごく盛り上がった。
陣痛って、噂には聞いていたけどハンパじゃあない痛みなんだよねえ とか、
おなかを痛めた子っていうけど本当に痛いのはおなかじゃあないんだよね とか……。
私も13年以上前のこと、一生懸命思い出してまるで昨日
の出来事を語るみたいに熱くなっちゃった。
勿論、陣痛にも個人差はあると思う。
でも、ユミちゃんと共感し合ったのは何といっても
痛いなんて生易しいもんじゃあない陣痛の話。
私の率直な体験談ね。
深夜2時頃、突然破水したの。
水みたいなものが下から少しずつ出てきて、いつの間にか
びっくりするくらい流れてくるわけ。
病院に電話したら、すぐ入院準備をして来て下さいっていうことになって。
で、朝10時くらいだったかなあ、生理痛みたいな痛みが10分おき
くらいにやってきたの。
ユミちゃんも言ってたけど、これが噂に聞いてた陣痛ってヤツか、
思ったより楽ってじゃん、ラッキーってタカをくくったわけ。
すると、その痛みは増す上に痛みの感覚がみるみる短くなり
お昼近くには2〜3分おきにやってき始めたの。
丁度、昼食の豚のしょうが焼き定食が運ばれてきて
ベッドの上のテーブルに置かれたの。
お昼どころじゃあない痛みになってきたんだけど、あまりにも
しょうが焼きが美味しそうだったし、急な入院で朝食の準備が
されていなかったから、もうおなかすいちゃってすいちゃって……。
それに、これから人生の一大イベントにのぞむわけだから
腹ごしらえはきちんとしとかなくちゃって思って。
だから、キューンと襲ってくる激しい痛みの合間35秒くらいを
見計らって、豚肉を食べはじめ結局ゴハンもお味噌汁もみんな完食しちゃったの。
あとで、看護婦さんたちにびっくりされたけど。
結局、赤ちゃんがでてきたのは夕方5時近くのこと。
思えば、ラストの2〜3時間が激イタのピークだったなあ。
正常分娩だったし、無痛分娩の用意もしていなかったんだけど
さすがに最後に耐え切れなくなって無痛でお願いしますって主治医に懇願した。
当時その病院にはお産のときの麻酔医が常駐していなくて
近くの大学病院から呼んできてもらうことにしたの。
ところが、急なオーダーだったし車が渋滞したとかで
麻酔医が駆けつけたときはもう産み終わっていたのね。
時すでに遅し。
激痛に耐えながら、お産&麻酔医を待ってる間、私、
どうしてたと思う?
ずーっと、股間を押さえ続けてた。
もうそこが張り裂けそうに痛くてさあ。
恥ずかしいなんて言ってる場合ではなくて、そうするしか
方法がないわけ。
実は、出産日まで仕事がやたら忙しくて(2週間前まで普通に
仕事してた)、自治体のやってる母親学級にも病院の
出産レクチャーにも一切参加してなかったの。
だから、なんの予備知識もなく丸腰で出産にのぞんだ私だった。
助産婦さんに、そこ押さえていると楽ですか?と聞かれて
恥も外聞もなく、「はい……。」と消え入るような声で
答えるしかなかった。
ユミちゃんから聞いたけど、病院の事前レクチャーでは肛門の
少し前の部分を押さえていると少し楽ですって教えられたんだって!
間違ってなかったんだね、本能的にそうした私だったんだけど。
でも、事前にそんなこと教えられて妊婦さんたちはものすごく
しらけたし、恥ずかしかったって。
ユミちゃんが言ってた。
分かるなあ……。
そばで聞いてたアシスタントのネイリスト2人が
「やだ〜、怖い!産むの、やだわあ〜。」って怖気ずいてたけど
ドンマイ、ドンマイ。
ユミちゃんも同意見だったけど、ああこれが産みの苦しみなんだ、
ようし目一杯味わっておこうみたいな気持も不思議と湧いてきて
ちゃあんと乗り越えられるの。
赤ちゃんが出てくる段になったときは全然痛くなかったって言ったら
ユミちゃんもおんなじだったって。
2人目、3人目も頑張ろうと思う人の気持ち、分かるなあ。
私は年齢的にもぎりぎりだったから、これが最後って思ってたけどね。
でも、若かったらあの痛み、また味わおうって思ってたかも。
赤ちゃんがおなかの中にいたときの感覚も今となっては
ものすごく懐かしい。
昔、臨月のアナウンサーの先輩が「重くて、歩くのがしんどい。」って
言ってたけど、出産1週間前あたりになるとすぐそこのコンビ二に
行くのも15分かけて休み休みでないと無理なの。
足の爪はサロンに行くのもしんどくて、終わりの頃はダンナに
切ってもらってたなあ。
うふ……。
それと、カウントダウンのときのあのたまらなく待ち遠しい気持ちも
とてもとても懐かしい。
出産百科みたいな本を何冊も買い込んだんだけど、
1ヶ月目から臨月まで、月ごとにおなかの中の赤ちゃんの様子が
イラストで書いてあるの。
ああ、今はこんなふうにおさまってるんだ。
来月はこんなに大きくなるんだ。
出てくるときってどんな感じなんだろう。
赤ちゃんって、どんな存在なんだろうって。
パリにあるエルメスの本店で特別注文したバーキンを待つ期待感なんて
かすんじゃうくらいのワクワク感なの。
オンナに生まれた限りこれらを経験しなければ1人前じゃあないって
いう人がいるけど、体験した今も私は全くそうは思わない。
産まない選択も尊いと思うし、
産めない人生も価値ある人生だと思う。
産む機械じゃあないもん、私たち。
産んでなかったら、私、もっと仕事で羽ばたけていたかもって思うことも
あるよ、正直。
でも、私の場合、あの特別な体験を味わえて、さらに母親という
役割を与えられてしみじみありがたい、良かったと思うんだ。




