LiLyの最新恋愛エッセイ『タバコ片手に、おとこのはなし』
別れの原因/灰色度★★★★☆
2009.05.03

  
 犯人が捕まらず、動機も分からない殺人事件は、解決するまでずっと、人を不安にさせ続ける。それと同じような気持ちから、私たちは恋愛の終わりにも、犯人と動機を探してしまう癖がある。

 
  “なんで? どっちが悪いの?”

 
 芸能人が離婚した時も、友達カップルが破局を迎えた時も、まず、人はそう思う。特に、愛し合っていることが他人の目にも明らかだった二人の別れは、他人にとってもショックだからだ。実際には、二人のことは二人にしか分からない、なんてことは知っているけれど、それでも聞かずにはいられない。
「えぇ! なんで? 何があったの?」 
 そんな時に、人が求めているのは、スッと腑に落ちて“あぁ、なるほどね!”と呑み込めるような、分かりやすい理由。たとえば、「彼に暴力を振るわれたから、私から別れた」とか、「私の浮気がバレて、彼に振られちゃった」とか、どっちが悪くてどっちから別れたのか、が明確なもの。そうすれば、「あぁ、そっか。なるほどね」と、他人のものでありながらも自分も脇目で見ていたひとつのラブストーリーは、スッキリと完結する。

  
 “なんで? なんで? なんで?”

  
 自分の恋愛が終わりを迎えた時、人は自分自身に何度も聞く。なにがいけなかったのだろう。どっちが悪かったのだろう。その答えを誰よりも欲しがっているのは、周りよりも、自分自身。
 この別れを、どう考え、どう感じればいいのか、お願いだから、誰か教えて。それが分からないかぎり、ずっと心の中がモヤモヤしてしまう。一刻も早く、原因を見つけて納得し、消化してしまいたい。だから早く、頭の中で白黒つけたい。答えを探してグルグルグルグル、頭が回る。それについていけずに、心はヤメテと悲鳴をあげる。半年前に元カレと別れてから、私は、そんな感じだった。

 別れは、人を、打ちのめす。新しい恋愛の幸せの中にいても、ふとした瞬間にズキズキと痛みだすような、拭えぬ傷を心につける。子供の頃から、何か悲しいことが起こるたびに、私はいつも、深く考えてきた。自分なりにその原因を突き止めさえすれば、心が落ち着くからだ。明確な原因は、人を何より安心させてくれる。私は、半年かけて考えた。涙をいっぱい流しながら、必死になって答えを探した。
 でも、見つからなかった。白黒、つかなかった。すべて私が悪い、と自分を責めまくってみたり、彼が悪かったのだ、と怒ってみたり、半年のあいだにいろんな感情が吹き荒れたけれど、分からなかった。結局別れてしまったけれど、私も彼も、お互いを、二人の関係を、大切にしていた。一生懸命だった。ただ、5年半という時間をかけて、私たちは少しずつ、違う方向へと、育ち分かれていったような気がする。誰のせい、でもなく、自然の流れの中で……。

 別れには、犯人はいないし、その原因も、灰色だ。愛し合った相手との恋愛では、ほとんどの場合がそうだと思う。とても上手くいっていた二人のあいだに事件が突然、ドカンと起きて、その次の瞬間にスパッと別れる、なんてことは滅多に起こらない。たとえば、「彼に暴力を振るわれたから、私から別れた」とか、「私の浮気がバレて、彼に振られちゃった」とか、他人からの“なんで?”に対する答えを出せた場合でも、だ。それらは、別れの原因でありながらも同時に、二人の間に少しずつ広がっていったズレが大きくなっていたことで生まれた、結果でもあるのだから……。白黒ハッキリ、分けられるものではない。
 正直、私はこの半年間ずっと、この恋愛エッセイを書くことから逃げたくてたまらなかった。別れについて、自分でもよく分からないのに書くなんて、怖くってたまらなかった。でも、最近になってやっと、この灰色を、そのまんま受け入れようと思った。受け入れることを、自分に許すことができた。時間が、私をここに、導いてくれた。

 永遠を信じた恋愛の終わりは、人に恐怖を感じさせる。その原因が、自分でもハッキリと分からないなんて、震えてしまう。
 でもね、原因も、感情も、すべてが灰色なのに、無理に頭の中で白黒つけようとしてもがくのは、もうやめたいと思う。

 日付が5月に変わったこの明け方、私がこの原稿を書いている今、元カレは新しい彼女と抱き合って眠っているかもしれない。隣の部屋からは、私の旦那さんの寝息が聞こえている。
 ひとつの恋愛の終わりは、ふたりの心に傷を残したけれど、それと同時に、お互いがお互いの大切な人でありつづける、という素敵な事実をひとつ、残してくれた。私が、彼と彼の新しい彼女との幸せを願えば願うほどに、彼も、私と旦那さんの幸せを心から望んでくれていることが、何故だか強く伝わってくる。

 人が恋愛の終わりに“なんで?”と思わずにいられないのは、理由なくして愛が壊れるはずがない、と誰もが信じている証拠なのかもね。
 だとしたら、愛は壊れない。恋は終わり、二人は別れ、二度と会うことがなくなっても、それはカタチを変えて、静かに流れ続けてゆく。今、私は本当に、そう思うよ。